軽水炉において冷却不能に陥った場合、まさに福島の事故がそうでしたが、炉
心熔融つまりメルトダウンという状況にすぐに陥ってしまう。また、圧力容器
中にあった水が蒸発して水蒸気となり、その水蒸気圧で圧力容器を吹っ飛ばす
水蒸気爆発が起こる怖れがある。核燃料の温度が上がると、燃料棒を被覆して
いるジルコニウム合金と水が熱化学反応を起こして水素と酸素に分解され、水
素爆発を起こす怖れがある。
軽水炉で冷却不能となる事故が起こると、このような破局的な事故に陥りやす
い。ということが福島原発事故で明らかになったわけです。経済性を重視した
結果、安全性がないがしろにされた結果です。もちろん、発電業というのも経
済活動なわけですから経済性は当然重要ではありますが・・・
福島の事故で明らかになったこと、それは地震等の緊急時にスクラムと言って
制御棒を挿入して核分裂反応を止めることに成功したとしても、崩壊熱は出続
けるため、冷却を続けなければならないこと。そして冷却を続ける為には、電
源が必要であること。
福島の原子炉では冷却を続けるためには、水を循環させるためのポンプを動か
すための電源が必要でした。このように、外部からの働きかけによって安全性
が保たれていることを能動的安全性と言います。
これの反意語が受動的安全性。これは外部からの働きかけが無くても、自ずと
安全性を確保することを言います。原子炉においてこの受動的安全性はどのよ
うに実現するのか?
PIUS炉では通常の冷却システムが全く働かなくなったときにも、格納容器
内を満たした水が冷却材の役目を果たすので、格納容器内の水が蒸発してしま
うまでの間、冷却を続けることが出来ます。考え方としては面白いとは思いま
すが、現在に至るまで実用化はされていないのが実情です。
やはり、格納容器の中を水で満たすということがまず水圧に耐えるように作る
ことが大変だし、燃料棒の交換とかどうやってやんの?という問題もあると思
います。が、なによりも開発もとのスウェーデン自体がスリーマイル島の事故
以降、原発の新規建設をやめてしまったという事情があります。
次は沸騰水型の受動的安全原子炉、GE考案のSBWRです。沸騰水型軽水炉
は福島の事故を起こした原子炉ですが、SBWRは福島のような事故がおきた
場合に自律的に冷却を続けるようになっているものです。
原理はそれほど難しいものではなく、要は格納容器の上方にプールを2つ設け
ておき、片方には水を満タンに入れる。他方には少量入れる。通常時は両方の
プールとも弁によって圧力容器とは隔てられています。
しかし冷却不能事故が起きて、圧力容器内の水が蒸発を始めると圧力容器内の
気圧が上昇する。そうすると双方のプールとの間の弁が自動的に開き、水蒸気
は水が少量入ったプールに逃げて行き、満タン入ったプールからは水が入って
きて冷却を継続する。簡単に言うとこういう仕組みです。
この仕組みによって、冷却系停止事故が起こっても少なくとも3日間は冷却を
継続できるような設計となっています。
米GEが考案したSBWRですが、こちらも現在でも実用化されていません。
一番の要因はスリーマイル島事故以来アメリカでは原発の新規建設が止まって
いること。沸騰水型原子炉を建設しているのはアメリカを除くと日本だけで、
その日本はチェルノブイリ事故の際に「日本の原発は絶対安全!キリッ!」と
やってしまったので、受動的安全性を持った原発を開発するということ自体が
「精神論的に」タブーとされてしまった、という点があります。
日本ではより経済性を高めたABWRが日立+東芝によって開発されました。
ABWRは基本的に原子炉自体が大型化し、格納容器が衝撃に強いプレストス
コンクリートでできており、冷却系の多重化、冷却水循環ポンプを格納容器と
一体化して破損しやすい配管部分を削減、などの安全対策はとられており、そ
れまでの沸騰水型原子炉より格段に安全性は高くなっていますが、受動的安全
性は備わっていませんでした。
ABWRは日本に4つあり、さらに2つが建設中です。日立とGE、日米共同
で開発されているのがESBWRという原子炉でこれはABWRとSBWRの
融合のような原子炉です。SBWRの受動的安全性とABWRの過酷事故への
耐性を兼ね備えていて、安全性が非常に高く、また経済性も高いとアメリカの
原子力規制委員会から評価されました。
現在、ABWRやESBWRは海外への輸出が推進されており、建設計画がア
メリカ、イギリス、フィンランド、リトアニア、ベトナム、台湾などで進行中
です。
AP-600は加圧水型軽水炉の元祖であり、現在は東芝傘下であるアメリカ
のウェスティングハウス社が開発した受動的安全型原子炉です。この原子炉は
重力による冷却水の供給、空気の対流を生かした原子炉全体の冷却などを巧み
に組み合わせて、ほとんど電動ポンプを使わない冷却システムを備えているこ
とが特徴となっています。
仮に福島のような事故が起こっても、全く人間が操作しなくても少なくとも3
日の間は冷却が続きます。その後は適切な処置を行えば冷却継続できる。とさ
れています。AP-600はその名の通り出力600MW、つまり60万キロ
ワットの電力を起こせるものでした。
しかし、仕組みが複雑になったため建設コストがかさみ他社製の原子炉とコス
ト面で競争できなかった。そこで、全体を大きくし出力を100万キロワット
に増やしたAP-1000というのを開発しました。
このAP-1000は現在、中国とアメリカで建設計画が進行中です。中国の
原発は仏アレヴァ社と競合しましたが、中国側の条件に「技術の提供」があり
アレヴァはこれを拒否したため、AP-1000に敗れました。中国版新幹線
でもそうでしたが、中国は他国の技術をコピーして「独自に開発した技術」と
称して破格の値段で外国に輸出することを企んでいます。実際にトルコでの原
発建設計画に応募してきたくらいですから。
トルコの原発は結局、日仏連合が落札しました。これに対する批判の声も大き
いようですが、私はともかく「中国製の原発」が他国に拡散されずにすんだ、
という点だけでも意義はあると思っています。あんな国の作った原発なんて危
険すぎて笑えない。